忘れもしない、ある雨の日の午後でした。私が住む築十五年のマンションで、それは突然起こりました。トイレからゴボゴボという不気味な音が聞こえ始めたのです。最初は気のせいかと思いましたが、音は次第に大きくなり、便器の水位がみるみる上昇してきました。慌てて駆け寄った時には、もう手遅れ。茶色く濁った水が便器の縁から溢れ出し、床へと広がっていきました。一瞬、頭が真っ白になりましたが、なんとか止水栓を閉め、床にタオルを敷き詰めて被害の拡大を食い止めようと必死でした。すぐに管理会社に連絡し、状況を説明すると、他の部屋でも同様の現象が起きている可能性があるとのこと。どうやら原因は、集中豪雨による排水能力の低下と、マンション全体の排水管のどこかに生じた詰まりのようでした。業者の方が到着するまでの数時間は、本当に生きた心地がしませんでした。幸い、我が家の被害はトイレの床が水浸しになる程度で済みましたが、階下への影響も心配でなりませんでした。後日、管理組合の調査で、排水主管の一部に木の根が侵入し、そこに異物が絡みついていたことが判明しました。この経験から得た教訓は、まず日頃から排水口に異物を流さないという基本的なことの徹底です。そして、万が一の事態に備え、止水栓の場所や操作方法を家族全員で共有しておくことの重要性を痛感しました。また、個人で加入している火災保険の内容を確認し、水濡れ被害が補償対象となるかどうかも把握しておくべきだと感じました。マンションのトイレ逆流は、いつ我が身に降りかかるか分からない災害の一つです。この苦い体験が、少しでも誰かの備えに繋がれば幸いです。