都内にある築35年のマンションに住む田中さん(仮名)は、ある朝、キッチンで異変に気づいた。シンク下の収納扉を開けた瞬間、カビ臭いような嫌な臭いが鼻をつき、床に置いてあった買い置きのミネラルウォーターの段ボールがぐっしょりと濡れていたのだ。慌てて中を確認すると、シンク下の床一面が水浸しになっていた。幸い、下の階への影響はまだ出ていないようだったが、放置できない状況であることは明らかだった。田中さんはすぐにマンションの管理会社に連絡。管理会社が手配した水道業者が駆けつけ、原因調査が始まった。業者がシンク下を詳しく調べた結果、水漏れの原因は、シンクの排水口から床下の排水本管へと繋がる「排水管(枝管)」の劣化・破損であることが判明した。田中さんの住むマンションは、排水管に金属管(鋳鉄管など)が使用されており、長年の使用によって内部が腐食し、小さな穴が開いてしまっていたのだ。水を流すたびに、その穴から汚水がじわじわと漏れ出し、シンク下のスペースに溜まっていたのである。修理には、床の一部を解体し、破損した排水管部分を新しい塩ビ管などに交換する必要があるとのことだった。工事は半日ほどで完了したが、床材の張り替えなども含めると、予想外の出費となった。今回のケースのように、築年数の古いマンションでは、目に見えない床下や壁の中の配管が老朽化している可能性がある。特に、専有部分(個々の住戸内)の配管の維持管理責任は、原則としてその住戸の所有者にあるため、注意が必要だ。管理組合によっては、長期修繕計画に基づき、定期的に共用部分だけでなく専有部分の配管診断や更新工事を行っている場合もあるが、そうでない場合は、個々の所有者が自身の判断で点検やメンテナンスを行う必要がある。田中さんは、「まさか床下の配管が原因だとは思わなかった。もっと早く気づいていれば、被害も少なく済んだかもしれない。これからは、目に見えない部分にも注意を払う必要があると痛感した」と語る。この事例は、シンク下の水漏れが、単なるパッキンの劣化やナットの緩みといった軽微な問題だけでなく、建物自体の老朽化に起因する深刻な問題である可能性もあることを示唆している。特に築年数の古い建物に住んでいる場合は、定期的な点検や、必要に応じた配管のメンテナンス・更新を検討することが重要と言えるだろう。